検索広告の月額予算は、媒体の推奨額や社内で出せる金額だけでは決められません。まず、受注一件あたり顧客獲得に使える金額を求め、許容できる媒体費を逆算します。その上限で必要な有効問い合わせ数に届くかを媒体の予測と照らし合わせると、月額予算の候補が見えてきます。

候補額は四つの条件で判定します。採算に加えて、営業が目標件数に対応できることと、候補額でその件数に届く見込みが必要です。顧客から入金される前の支払いに耐えられるかも確認します。

根拠のある入力がそろって四条件を満たせば「予算候補を採用」です。条件に合わなければ「前提を見直す」とします。判断に必要な根拠がなければ「根拠不足で保留」です。

受注一件あたり獲得に使える金額を求める

計算は売上ではなく、対象商材を1件受注したときに残る金額から始めます。売上をそのまま起点にすると、商品やサービスを提供するための費用まで広告へ使えるように見えてしまうためです。粗利を使うなら、会社計算規則第89条で示される売上総利益に近い金額として、売上から売上原価を引いた額を置きます。粗利の計算では販売費や一般管理費をまだ差し引いていないため、売上原価に入っていない受注後の追加費用はこの後で引きます。

限界利益を使う場合は、売上高から変動費を引きます。中小企業庁の損益分岐点に関する資料もこの考え方を示しています。変動費の範囲を社内で固定し、粗利と途中で混ぜないことが大切です。

費用の二重控除にも注意してください。限界利益を出すときに外注費を変動費として引いたなら、受注後の増分費から同じ外注費をもう一度引きません。粗利を使う場合も、売上原価に含まれる費用は控除済みです。計算基準と費用の範囲を先に記録しておくと、利益を必要以上に小さくする誤りを防げます。

計算基準に含まれない受注後の増分費を引き、受注から確保したい利益も残します。残った額が、受注一件あたり顧客獲得に使える金額です。

LTVへ置き換えられるのは、同じ顧客群について有限の評価期間を決められる場合だけです。その期間の継続率と値引きを確認し、貸倒れも反映します。継続提供にかかる増分費まで差し引けるなら、初回の粗利の代わりに期待限界利益を使えます。売上LTVをそのまま使ったり、初回粗利へLTVを足したりはしません。

受注率は結果まで追えた問い合わせから算出する

有効問い合わせから受注までの率は、分子と分母を同じ問い合わせ群にそろえます。直近の受注件数を直近の問い合わせ件数で割ると、もっと前の問い合わせから生まれた受注が混ざる場合があるためです。

先に、有効問い合わせの条件を一つ決めます。その条件に該当し、受注または失注まで結果を確認できた問い合わせだけを使います。まだ商談中の案件が多い期間では、受注率を確定できません。その期間を使わず、同じ時期に発生して結果まで追えた問い合わせの集団に戻ります。

式の単位は次のようにそろいます。

~text 観測が完了した受注数 [受注] ÷ 同じ問い合わせ群の有効問い合わせ数 [有効問い合わせ] = 有効問い合わせから受注までの率 [受注 / 有効問い合わせ] ~

受注一件あたり顧客獲得に使える金額にこの率を掛けると、有効問い合わせ一件に配分できる期待額になります。ただし、まだ全額を広告媒体へ回せるわけではありません。

失注案件にもかかる営業費を先に引く

受注前の営業費を受注した案件だけへ割り当てると、失注分が計算から抜けます。初動対応は、受注しなかった問い合わせにも必要です。商談や提案まで進んで失注した案件にも、人件費や移動費がかかります。ここで差し引くのは、粗利や限界利益の計算へ含めていない増分だけです。

そこで、初動対応費は有効問い合わせ1件あたりで置きます。商談費は「有効問い合わせから商談へ進む率」に「1商談あたりの増分費」を掛けます。提案にも追加費用があるなら、同じ方法で期待額へ直します。各費用を有効問い合わせ単位にそろえて引けば、失注分を含む許容総獲得費が残ります。

媒体費以外の増分獲得費を分ける

許容総獲得費には、広告媒体へ支払う費用以外も含まれます。配信を始めることで広告運用費が増えるなら、その増加分は非媒体の増分獲得費です。広告のリンク先ページを新しく作る費用や追加の計測費も、今回の獲得のために増える部分だけを含めます。

毎月発生する非媒体費は、その月の目標有効問い合わせ数で割ります。その結果を許容総獲得費から引いた残りが、許容媒体費です。既存社員の給与や既存システム費を一律に配賦すると、増分費ではなくなることがあります。何を含めたかが分かるようにデータ元を残してください。

許容媒体費と予測される媒体費を同じ単位で比べる

事業側の許容額ができたら、Google広告のキーワード プランナーの予測でクリック数と費用を確認します。公式ヘルプでは、予測クリック数と予測費用は1日あたりの値として定義されています。月単位のシートへ入れるときは、費用とクリック数を同じ日数で換算し、対象期間を記録します。このとき使う換算日数は、請求上限を計算する日数とは分けて扱います。

月額だけを見ても、得られる見込み件数が違う候補同士の採算は比べられません。予測は入札単価や予算の影響を受け、実績と異なる場合があります。ここでいうクリックは自社が定義した有効問い合わせではないため、予測クリック数に自社の有効問い合わせ率を掛けて換算します。同じ候補予算について、式を次の単位でそろえます。

~~~text 媒体予測クリック数 [クリック / 月] × 有効問い合わせ率 [有効問い合わせ / クリック] = 予測有効問い合わせ数 [有効問い合わせ / 月]

媒体予測費用 [円 / 月] ÷ 予測有効問い合わせ数 [有効問い合わせ / 月] = 予測媒体費 [円 / 有効問い合わせ] ~~~

予測媒体費が許容媒体費を上回るなら、予算の増額だけでは採算を改善できません。候補額を変える場合は、その金額で費用とクリック数を取り直して比べます。予測に使った検索範囲が対象商材と合っているかも見直します。広告のリンク先ページから有効問い合わせへ進む率に根拠がなければ、先にその根拠を集めます。

LINEヤフー広告の予測値は取得根拠を残す

LINEヤフー広告では、検索広告のキーワードアドバイスツールが2023年5月31日に提供を終了しています。2026年7月22日時点で公開されている公式情報からは、Googleのキーワード プランナーと同等の現行機能を確認できていません。ただし、同等機能が存在しないと断定するものではありません。

管理画面の表示や担当者から得た予測を使う場合は、取得日と対象条件を記録します。予測を取得できなければ、過去実績か、根拠を明示した社内の仮定を置きます。どれも用意できない段階では「根拠不足で保留」です。

月額予算候補と管理画面の日予算を分ける

この記事で出す月額予算候補は、事業側が一か月に認める媒体費です。管理画面に設定する日予算や媒体の請求上限とは役割が違います。日予算を日ごとに絶対に超えない支出上限だと考えると、資金計画がずれるおそれがあります。

Google広告の「1日の平均予算」は、日々の絶対上限ではありません。Google広告の費用管理に関する公式ヘルプによると、実際の費用は指定額を上回る日があります。ほとんどのキャンペーンに適用される日次と月次の費用上限は、費用の上限についてで別に示されています。月の途中で予算を変更すると上限にも影響するため、月額予算候補を日予算へ置き換えただけで管理を終えない方が良いです。

LINEヤフー広告の検索広告にも「1日の予算」という設定があります。キャンペーン作成の公式ヘルプは、この金額を基に配信を調整する仕様を示しています。1日の予算を超過した場合の請求では、表示機会が多い日に予算を超えるコストが発生する場合と、請求対象の上限が説明されています。Google広告とは別の仕様として確認し、月額予算候補と請求限度額を分けて記録してください。

空欄計算シートで月額予算候補を作る

次のシートは、金額を円にそろえた形です。税込と税抜のどちらを使うかを最初に固定し、すべて同じ基準で記入してください。率は百分率の表示だけでなく、計算に使う小数も残します。

~~~text 対象商材 [名称]: 獲得単位 [顧客社 / 初回契約 / 受注案件]: 評価期間 [開始日から終了日]: 金額基準 [税抜 / 税込]: 通貨 [円]: 有効問い合わせの定義:

  1. 結果まで追えた問い合わせ群の受注率
  2. 観測が完了した受注数 [受注]:
  3. ÷ 同じ問い合わせ群の有効問い合わせ数 [有効問い合わせ]:
  4. = 受注率 [受注 / 有効問い合わせ、小数]:
  1. 有効問い合わせ1件に使える総獲得費
  2. 計算基準 [粗利 / 限界利益]:
  3. 受注1件あたり評価期間内の粗利または限界利益 [円 / 受注]:
  4. 計算基準に含まれない受注後の増分費 [円 / 受注]:
  5. = 広告前の増分利益 [円 / 受注]:
  6. 受注1件から確保したい利益 [円 / 受注]:
  7. = 受注一件あたり顧客獲得に使える金額 [円 / 受注]:
  8. × 受注率 [受注 / 有効問い合わせ]:
  9. = 受注確率を反映した獲得費 [円 / 有効問い合わせ]:
  10. 初動対応費 [円 / 有効問い合わせ]:
  11. 期待商談費 [商談 / 有効問い合わせ × 円 / 商談]:
  12. 期待提案費 [提案 / 有効問い合わせ × 円 / 提案]:
  13. = 許容総獲得費 [円 / 有効問い合わせ]:
  1. 媒体費へ回せる額
  2. 非媒体の増分獲得費 [円 / 月]:
  3. ÷ 目標有効問い合わせ数 [有効問い合わせ / 月]:
  4. = 非媒体の増分獲得費 [円 / 有効問い合わせ]:
  5. 許容総獲得費 [円 / 有効問い合わせ]:
  6. 非媒体の増分獲得費 [円 / 有効問い合わせ]:
  7. = 許容媒体費 [円 / 有効問い合わせ]:
  8. × 目標有効問い合わせ数 [有効問い合わせ / 月]:
  9. = 採算上の媒体費上限 [円 / 月]:
  1. 候補予算に対する媒体側の見込み
  2. 月額予算候補 [円 / 月]:
  3. 媒体予測費用 [円 / 月]:
  4. 媒体予測クリック数 [クリック / 月]:
  5. 有効問い合わせ率 [有効問い合わせ / クリック、小数]:
  6. 予測有効問い合わせ数
  7. = 予測クリック数 × 有効問い合わせ率 [有効問い合わせ / 月]:
  8. 予測媒体費
  9. = 予測費用 ÷ 予測有効問い合わせ数 [円 / 有効問い合わせ]:
  1. 工程別の対応能力
  2. 初動対応できる件数 [有効問い合わせ / 月]:
  3. 商談余力から換算した件数 [有効問い合わせ / 月]:
  4. 受注後の受入余力から換算した件数 [有効問い合わせ / 月]:
  1. 入金前の資金繰り
  2. 判定期間 [開始日から顧客入金日]:
  3. 判定開始時の現預金 [円]:
  4. 期間内に支払う媒体費 [円 / 判定期間]:
  5. 期間内に支払う非媒体の増分獲得費 [円 / 判定期間]:
  6. 期間内に支払う営業費と受注後の増分費 [円 / 判定期間]:
  7. 同じ期間の顧客入金 [円 / 判定期間]:
  8. 同じ期間のその他の入金と支出 [日付、円 / 判定期間]:
  9. 各入出金後の現預金 = 直前の現預金 + 当日の入金 - 当日の支出 [円]:
  10. = 期間中の最低現預金見込み [円]:
  11. 維持する最低現預金 [円]:
  1. 入力根拠
  2. 入力値:
  3. 単位:
  4. 対象期間:
  5. データ元:
  6. 母数:
  7. 区分 [実績 / 媒体予測 / 社内仮定]:
  8. 確認担当:
  9. 確認日:

判定 [予算候補を採用 / 前提を見直す / 根拠不足で保留]: 見直す入力または不足している根拠: ~~~

月額予算候補は計算だけで一つに決まるものではなく、媒体予測で試すための金額です。媒体予測費用は、月額予算候補と同じ設定条件と対象期間で取得します。月額予算候補と媒体予測費用が異なる場合は、使い切れない予測なのか、上限を超える可能性を含むのかを媒体仕様に沿って確認してください。予測有効問い合わせ数がゼロになる場合は割り算をせず、到達見込みを作れない候補として扱います。

三つの前提で判定が変わるかを比べる

受注率や有効問い合わせ率は、一つの値だけで確実とは言えないことがあります。そこで、同じ入力項目を使い、「厳しい前提」「基準」「良い前提」を横に並べます。この三つは発生確率を表すものではありません。根拠のある範囲で入力が変わったときに、判定が反転するかを見るための欄です。

入力・結果厳しい前提基準良い前提根拠・期間・母数・区分
受注1件あたりの粗利または限界利益[ ][ ][ ][ ]
受注前後の増分費[ ][ ][ ][ ]
確保したい利益[ ][ ][ ][ ]
有効問い合わせから受注までの率[ ][ ][ ][ ]
媒体予測費用とクリック数[ ][ ][ ][ ]
有効問い合わせ率[ ][ ][ ][ ]
許容媒体費 / 有効問い合わせ[ ][ ][ ]計算
予測媒体費 / 有効問い合わせ[ ][ ][ ]計算
月額予算候補[ ][ ][ ]入力候補
判定[ ][ ][ ][ ]

各欄には観測件数を添えます。根拠のない一律の増減で三列を埋めても、判断材料にはなりません。三つとも社内仮定しか置けない場合は、幅を広げて安心しようとせず「根拠不足で保留」としてください。

月額予算候補は四つの条件で判定する

最後に、月額予算候補が四つの条件をすべて満たすか確認します。どれか一つを満たさないときは、ほかの条件に余裕があっても相殺しません。

  • 採算: 予測媒体費が許容媒体費以下であり、月額予算候補が採算上の媒体費上限以下かを確認します。
  • 工程別の対応能力: 目標件数が初動対応の上限を超えないかを見ます。商談余力と受注後の受入余力も、有効問い合わせ件数へ換算して別々に確かめます。
  • 媒体の到達可能性: 同じ候補予算から予測した有効問い合わせ数が、目標件数に届くかを確認します。
  • 入金前の資金繰り: 顧客入金までの最低現預金見込みが、維持する最低現預金を下回らないかを確認します。

利益が出る計画でも、支払いが先に来れば資金は不足します。J-Net21の資金繰りに関するQ&Aも、利益と資金繰りを分けて考える必要を示しています。資金繰り欄で同じ費用を現金支出として再掲するのは、現金残高の推移を確認するためです。採算計算の利益から同じ費用をもう一度引くものではありません。

広告費の支払時期は、媒体と契約条件で変わります。Google広告の自動支払いは公式ヘルプで確認できます。LINEヤフー広告で前払いを利用する場合は、前払い方式の公式ヘルプに沿って、入金が必要になる時点を資金表へ置きます。

四条件を満たし、すべての入力根拠を残せる月額は「予算候補を採用」です。根拠がそろっていても一条件以上を満たさない場合は「前提を見直す」とします。条件を評価する根拠が欠ける場合は、月額を作らず「根拠不足で保留」です。採用後の実績による見直しは、検索広告の月次レポートで扱います。

計算は対象商材を一つ決めて始める

計算を始めるときは、全社の広告費を一度に配ろうとしない方が良いです。商材が変われば、残る利益も営業工程も入金時期も変わります。複数商材を一枚へ混ぜると、どの受注率を使うべきか決められません。

まだ月額を書かなくて構いません。空欄計算シートの「対象商材」に、今回予算を判断する商材を一つだけ書いてください。